遺言内容は疎遠の相続人にも知られてしまうの?自筆証書遺言、公正証書遺言を比較して解説
遺言を作成する目的として「疎遠の相続人がいるため、遺された相続人が遺産分割協議することなくスムーズに相続させてあげたい」
このような趣旨も少なくないと思います。
それに伴い、「遺留分を行使されたくないので疎遠の相続人には、遺言の内容自体を知られたくないです。」
といったご相談も実際にございました。
遺言の内容が他の相続人に知られることはないのか?自筆証書遺言と公正証書遺言を比較して解説していきます。
自筆証書遺言の場合
前提として遺言を作成した段階では相続人に通知がいくことはありません。
公正証書遺言でも同様です。
ただ、遺言者が亡くなった際に遺言が発見されなければ意味はありませんので、遺言の保管場所は信頼できる者に伝えておく必要はあります。
遺言が問題になるのは効力発生後です。遺言者が亡くなった時ですね。
その際は疎遠の相続にまで遺言の内容が知られてしまうのか?
結論ですが自筆証書遺言は相続人全員に遺言が存在することは知られてしまいます。
理由ですが、自筆証書遺言は遺言の「検認」をする必要があるからです。
検認とは相続人全員に対して遺言の存在や内容を知らせるとともに、裁判官立会のもとで遺言の形状や検認時の遺言内容などを明確にし、遺言書の偽造、変造防止するための手続きです。
検認は遺言者が亡くなった後に、遺言の保管者か遺言を発見した相続人は家庭裁判所に検認の申立てを遅滞なくしなければなりません。
※検認の詳細は別の記事を作成予定です。
自筆証書遺言は原則検認をしなければなりません。
検認していない遺言書は相続登記や預金の解約などの相続手続きに使用することはできません。
自筆証書遺言で検認が不要になるのは法務局に遺言を保管した場合です。
この場合は法務局で原本が保管されるので、遺言書の偽造や変造の心配はいりませんので検認が不要となります。
ただし、遺言の効力発生後に相続人の1人から遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付申請した段階で相続人全員へ通知がいってしまいます。
以上から自筆証書遺言は相続人全員が遺言の存在を知ることになります。
公正証書遺言の場合
自筆証書遺言は相続人全員に通知がいってしまいます。
では比較して、公正証書遺言はどうでしょうか?
こちらも結論からですが、遺言執行者が選任されていなければ他の相続人に通知はいきません。
公正証書遺言は検認手続きが不要なため、疎遠の相続人に対して遺言の内容が通知いくことはありません。
ただし、遺言執行者が選任されている場合は相続人全員に遺言者の財産内容が通知されます。
民法第1011条1項に「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」と規定があります。
条文どおり、遺言執行者は相続人全員に対して相続財産目録を作成して交付する義務があります。
よって相続人は遺言者が亡くなったこと、遺言が遺されていること、相続財産の内容が明らかになります。
※遺言執行者とは遺言の内容を実現することを職務として、指定又は選任された者をいいます。
遺言の効力発生後は遺言内容の実現を実現させることになりますが、当然遺言者は死亡しているため、遺言者に代わって遺言を執行する者が遺言執行者です。
遺言執行者については別のコラムで詳しく解説いたします。
逆に言えば遺言執行者が選任されていなければ、相続人に対して通知する義務を負う者はおりません。
しかし、遺言執行者がいなければ預金の解約の際に金融機関から相続人全員の署名、ご実印での押印と印鑑証明書の提出を要求される可能性があります。
遺産分割協議書を避けるための遺言ですから、本末転倒な結果となってしまいます。
蛇足にはなりますが、相続登記の申請は遺言執行者が介入することなく相続する者が単独で申請することができます。
まとめ
1.自筆証書遺言は確実に相続人全員に遺言の存在が知られると考えるべきです。
2.公正証書遺言は検認手続きが不要なため、遺言執行者が選任されていなければ相続人に通知がいくことはありません。
相続財産が不動産だけであれば、取得する相続人だけで相続登記が申請できるため、遺言執行者がいなくても遺言内容を実現すること自体は可能です。
3.私(近藤)は遺言は相続人全員に知られること前提で遺言書を作成することをお勧めいたします。
ひょんなことから遺言書の内容が疎遠の相続人にも発覚し、遺留分減殺請求される可能性があるからです。
あらあじめ遺留分に留意しつつ遺言書を作成した方がよいのではないでしょうか。
この記事を書いた人
司法書士 近藤 雄太